No.12. ダラダラ食いと耐える心の発達
<歯の治療で泣く子と泣かない子の差はなんだろうか?>
3・4歳児の子ども達の歯科治療中に不思議に思うことがある。
同じ年齢で同じ治療内容なのに,おりこうに治療を受けられる子がいる一方,すぐに泣いて暴れてたいへんな子がいる。
この差は,いったい何だろうか?
そういえば,保健センターで行なわれている3歳児歯科健診でも,むし歯の多い子ほどよく泣くような気がする。
これは単に口の中を見られることや,歯の治療が恐いことだけの差だけなのだろうか...。実はこの差,乳幼児期からのオヤツの食べ方と関係があるような気がしている。
このように思うに至った過程を紹介する。
さて大人でも歯の治療は嫌なものである。しかし大人が治療するのは,この治療が自分のためであることが理解できるのからである。
それでは子どもは何歳位になったら,自分のためであることがわかるのだろうか?
精神発達の上では,4歳程度の理解力が必要とされている。もちろん自分のためであることが理解できると同時に,歯科医の立場からも痛みを与えない治療が基本だ。
しかし歯の治療は,最低必要源の我慢が必要である。
それはある一定時間,ジツ(ー)として診療台の上で口を開けることだ。これが出来なければ,治療にならない。
それでは我慢する心とは,どのように発達するのだろう。これが乳幼児期のオヤツの与え方と関係しているように思う。
さてむし歯と最も関係の深い生活習慣は,オヤツの食べ方である。
たとえば乳幼児を対象にアンケート調査をすると,オヤツを1日に3回以上食べる場合やダラダラ食べている子はむし歯が多い。
だからむし歯予防のためには,まずダラダラ食いをさせないことが重要だ。
<子供の治療態度とダラダラ食いの関係についての
アンケート結果。ダラダラ食い(与える時間が決まって
いない ) をしていると解答している保護者は、同時に
治療で泣くだろうと思っている。 >
<実際の治療でも、ダラダラ食いをしている
子は、泣く割合が多い。 >
ところでここに面白い調査がある。
4・5歳児の歯の治療時に,保護者にアンケートをお願いする。一つは,歯の治療中に子どもはどのような態度をとるか?もう一つは,おやつの与え方の様子である。
そうすると興味深いことに,オヤツをダラダラ与えていると解答している保護者は,同時に治療中に泣くだろうと答えている。
一方,規則正しく与えている場合は,おりこうに治療が受けられるだろうとの結果だった。また実際に治療時に,ダラダラ食いの子どもたちがよく泣いているのである。
さて読者の方は,この理由どのようにお考えだろう?
現代の子ども達は,"お腹が空いた!"と言えば、すぐにオヤツを得ることができる。もし望みが叶わなかったら泣けば手に入る。
このように欲しいものが簡単に手に入る生活では,何事につけても我慢する心が育たないように思う。
例えば,3時10分前におやつを欲しいと子どもが言ったとする。
栄養の面から考えれば3時10分前でも,3時でもかわらない。
しかしこの"10分間我慢する"ということの積み重ねが、我慢する心の発達につながるのかもしれない。
乳幼児期からのこのような食習慣。これが歯科治療の場で現れるのではないか。
また思春期においては我慢が出来ない"キレやすい"若者達の増加。これも乳幼児期に源があるのかもしれない。
オヤツのダラダラ食いは,むし歯のみならず子ども達の健全な心の発達にも影響を与えている可能性があるのだ。
モンゴル健康科学大学 客員教授 岡崎 好秀 先生
(前 岡山大学病院 小児歯科 講師)
子供も楽しめる保健指導情報を 「Dr. 岡崎の口の中探検」にて好評連載中。
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